[セミナー]ノーベル化学賞の野依教授の講演

独立行政法人理化学研究所野依良治理事長のセミナーを聴きに行きました。いうまでもなく,2001年ノーベル化学賞受賞者,最近では,事業仕分けに抗議した様子が報道されたことが記憶に新しい,野依先生の講演。場所は,有楽町の国際フォーラム。毎年,この時期に行われている富士通フォーラムにおける特別講演として行われました。
テーマは,「科学と人類社会」。予定時間は1時間。開演30分前に着いたのに,すでにかなりの参加者が着席されていました。

定刻,特に進行役の司会者がいるわけでもなく,富士通の偉い人が挨拶を述べるわけでもないまま,野依先生が登場して,しゃべり始めます。
冒頭,日本の現状に対する危機感をいくつか挙げられた後,
人類は自らの愚かな行為で破滅に到る存在であってはならない。
という持論を述べられます。この言葉は,講演の最後になって,
日本の国是は?
という問いかけにつながり,「科学と人類社会」という,今日の講演の基調をなす考えであったことに気づかされた次第です。

野依先生の話は続きます。
基礎科学の重要性を語り,現在の日本の大学院・大学での研究者の状況を憂い,同時に危機感の薄い政治家や経営者への不満を口にする。
基礎科学の発展には突出した人材が必要であり,オリンピックに例えれば100メートル走で金メダルを必ず取れるような環境がなければならないと,100メートルの世界記録保持ウサイン・ボルトを引き合いに出して熱っぽく語る。
また,科学技術による価値創造として,
・人類の平均寿命を45歳から80歳へ伸ばしたこと
・人間の能力を「外的」に高めたこと
・巨大な経済効果
の3項目をあげ,同時に科学技術の光と影について言及するとともに,行き過ぎた市場経済主義や覇権主義への憂慮を表明する。

締めくくりの問いかけが,「日本の国是は何か」というものであり,野依先生の考えは,
限りある地球の枠組みの中で,
人類の生存に貢献する国
日本国憲法,外交,産業,文化,教養,科学技術もそのためにある
というものでありました。

定刻を5分くらい超過して,講演は終わりました。
非常に分かりやすく,しかも熱のこもった講演で,会場を後にしながら,私自身も「日本の国是」を考えていました。すぐに出るような結論は持ち合わせておりませんが,これからも頭の片隅に残るだろうと思う,問いかけでした。

富士通フォーラムは今日まで開催されています。
https://forum.fujitsu.com/2010/tokyo/?fjsmnroute=F_pb_fs01&fstory=1004b01-01

(米澤勝)