日本IBM社申告漏れ

 日本IBM社といえば,最近は,ニイウスコー有価証券報告書虚偽記載に関連して家宅捜索を受けるなど,筆者の偏見かもしれませんが,本業以外のニュースが多いような気がしています。
 昨日の夕刊各紙によりますと,今度は,東京国税局の税務調査によって4,000億円の申告漏れを指摘され,300億円を超える追徴税額の納付を命じる更正処分を受けたようです。
 いくつかの紙面を読みましたが,その伝えるところは概ね同じで,APホールディングス(APH社)は,2002年,米IBM社が保有する日本IBM社株を米IBM社の資金で購入(約2兆円)。2008年になって,これを安値で日本IBM社に売却し,赤字を計上させる方法により,日本グループ企業IBM社の黒字と相殺する方法により,連結納税制度により法人税負担の軽減を図ったものであるということのようです。確かに,APH社が日本IBM 社株式を取得するにあたって,米IBM社の資金提供を受けているらしいこと,その当時より安値で,APH社は,保有していた日本IBM社株式を日本IBM社に売却していることなど,どのような意図があって,この取引を行ったのかは,新聞記事だけでは判断できないものがあります。

 http://www.itmedia.co.jp/news/articles/1003/18/news029.html
 http://news.goo.ne.jp/article/yomiuri/nation/20100318-567-OYT1T00448.html

 2008年12月期から連結納税を導入し,同年度に,株式売却による赤字を計上したうえで,法人税負担の軽減を図っていることから,明らかに日本の法人税制を研究した上での行為であるのは間違いないようです。
国税当局は,自社株取引に経済合理性がなく,税負担の軽減を図った行為を法令の乱用であるとして否認しているようですが,本件取引はともかく,連結納税制度を利用した法人税負担の軽減策は,大なり小なり,連結納税制度を利用している企業グループでは検討されており,そうした行為の中で何を否認し,何を認容するかについて,明確な線引きをするのは難しいのではないかと考えます。
 そもそも日本の税制には,私法上の取引を租税回避のみを目的としているという理由で否認するための包括的な規定が十分ではない(同族会社の行為計算の否認規定があるくらい)ため,今回の日本IBM社対東京国税局の争いがどう帰着するか,大いに注目したいと思います。

(米澤勝)