租税争訟セミナー

昨日,岩品信明弁護士による租税争訟セミナーを受講しました。
サブタイトルは,「審査請求・税務訴訟・相互協議の比較と戦略」というもので,企業の法務部門担当者をメインターゲットにした構成となっており,その点,(税理士としては)物足りないところもありましたが,任期付公務員として国際税務専門官の経験をお持ちの岩品弁護士によるお話は,ひじょうに実務的で,2時間の講義がずいぶん短く感じられました。

もっとも興味を持って話をうかがっていたのは,不服申立前置主義のもと,異議申立⇒審査請求⇒租税訴訟という納税者の権利を守る一連の手続きの中で,どのタイミングで次のステージに移行すべきであるかという論点でした。
異議申立ては,課税処分を行うにあたって同意している真理課に対してなされるために,処分が取り消される可能性は限りなく低いことから,青色申告書に係る更正処分に対する不服など,いきなり国税不服審判所への審査請求が認められる場合には,審査請求を選択すべきであること。
審査請求は,税務訴訟と違って費用がかからず,反論の機会を得られるほか,原処分庁から提出された証拠の閲覧が請求できるなど,納税者にとってメリットのある制度ではあるが,審判が課税庁側の人間で構成されていることから,公平性や争点整理能力に疑問が残ることなどから,審査請求申立後3カ月経過の時点で,税務訴訟へ移行を検討することも考える必要があること。

それから興味深かったのは,課税庁内部のこんなやりとりです。
課税庁幹部・審理課は課税処分について敗訴は避けたいと考えるため,処分を出すのは慎重になりがちですが,調査担当者は課税処分をしたがる傾向にあるようです(課税をすれば評価されるから)。また,調査担当者の評価は,その後,課税が取り消されても,すでに異動後の出来事であり,取消処分は評価に影響しないとのこと。

調査担当者の「成果主義」については,小職も,税務調査の立ち会いの際に聞いたことがあります。重加算をとるかどうか,交際費など,複数年度で通算されない否認事項を発見するかどうかで,評価が違っているということのようでした(売上計上洩れなどは,当年度は否認されて税額が増えますが,翌年度に任用が発生するため,2年間でみた場合の増収は過少申告加算税のみとなるからでしょうか)。

また,こんな話もされていました。
調査担当者は,課税庁内部で課税処分に逡巡があっても,顔には出しませんので,納税者としては,「更正処分を待つ」か「修正申告に応じる」かの見極めが肝心となります。課税庁側からみると,処分を出すかどうか迷っているときに,修正申告に応じる弱気な納税者が多いように感じます。

不服申立てをしたからといって将来の税務調査が厳しくなることはない。
逆に,修正申告の慫慂に応じたり,課税処分に対する不服申立てをしなかったりといった経歴は課税庁に残っていますので,次の税務調査のときに,調査担当者が強気に出てくる可能性はあるそうです。



(米澤勝)