[税務争訟]弁護士の必要経費――上告受理申立書

 弁護士である納税者が,弁護士会の役員として行う会務活動に伴う支出が,事業所得の計算上必要経費になるかどうかが争われてきた訴訟は,昨年9月19日,東京高等裁判所が国(処分行政庁)の主張を全面的に認めた第一審判決を覆して,納税者の主張を大幅に認めた判決を出し,話題を呼びました。
 争点となった法律の規定はこうなっています。

所得税法第37条第1項(必要経費――一部抜粋)
その年分の不動産所得の金額、事業所得の金額又は雑所得の金額の計算上必要経費に算入すべき金額は、別段の定めがあるものを除き、これらの所得の総収入金額に係る売上原価その他当該総収入金額を得るため直接に要した費用の額及びその年における販売費、一般管理費その他これらの所得を生ずべき業務について生じた費用の額とする。

 必要経費となるのは,
(1) 売上原価その他収入を得るために直接要した費用の額
(2) 販売費,一般管理費その他所得を生ずべき業務について生じた費用の額
であり,(2)の「業務について生じた費用の額」の範囲をめぐって,これまでも多くの訴訟が提起されてきました。過去の判決では,本訴訟の第一審判決同様,「事業所得を生ずべき業務との直接関連性」と「業務遂行上の必要性」を要件として,法律上明文規定のない「直接関連性」がないことを理由に,必要経費であるとの納税者の主張を否定してきました。
 学説としても,金子宏名誉教授が論じられた,「ある支出が必要経費として控除されうるためには,それが事業所得と直接の関連をもち,事業の遂行上必要な費用でなければならない。」(金子宏『租税法(第17版),258ページ)というのが一般的な理解でした。
 そこに,東京高等裁判所の判決は一石を投じたのです。
 控訴審判決は,原審が,「所得を生ずべき事業と直接関係し,かつ当該業務の遂行上必要であること」とした部分をことごとく「事業所得を生ずべき業務の遂行上必要であること」と書き改めたうえで,被控訴人(国=処分行政庁)の主張を,「事業の業務と直接関係を持つことを求めると解釈する根拠は見当たらず,「直接」という文言の意味も必ずしも明らかではない」として退けました。

 もちろん,国は上告しました。TAINSに掲載された上告受理申立書を読みますと,その骨子として,次の3点が挙げられています。
(1) 原判決は、ある支出が事業所得の計算上必要経費として控除されるためには事業所得を生ずべき業務の遂行上必要な費用でありさえすれば足りるとし、その費用が事業所得を生ずべき業務活動を行う上で生じたものであること(事業との直接関係性)を要しないとする点で所得税法37条1項の解釈を明らかに誤ったものであり、少なくともこれまでの高等裁判所の判決と相反する判断をしたものである。
(2) 原判決は、弁護士会等の活動が弁護士に対する社会的信頼を維持して弁護士業務の改善に資するものであることを理由に、相手方が弁護士会等の役員等としての会務活動に必要な費用であると認められ、あるいは、弁護士会等の役員に立候補するために不可欠な費用であれば、弁護士業に係る事業所得の金額の計算上一般対応の必要経費に該当し、かつ、消費税等の計算上課税仕入れに該当すると判示しているものであり、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令解釈の違反がある。
(3) 原判決の示した一般対応の必要経費に該当するか否かの判断枠組みを容認した場合、本件の個別事案にとどまらず、弁護士会はもとより、医師会、司法書士会、弁理士会等の他の士業会の会務活動に付随する支出に係る課税実務全般にも多大の影響を与えるものであり、本件は法令の解釈に関する重要な事項を含むものと認められる。

 ということで,これまでの高裁判決とは明らかに異なる判断を示したもですから,最高裁が上告を受理するのは必須のような気がします。筆者としては,会務活動後の懇親会費用が「特定の集団の円滑な運営に資する」から,社会通念上も業務の遂行上必要な支出であると判断されたことは当然であると考えますが,異論もあるようです。

 発売中の月刊税務事例2013年2月号には,佐藤孝一税理士と岩手県立大学の金子友裕准教授が,異なった見解を示す論文を掲載していて,ひじょうに興味深く拝読しました。

【税理士 米澤 勝】