[研修]品川教授による改正国税通則法の解説

 今日の午後は,東京税理士会麻布支部と芝支部の合同研修会に出席して,筑波大学名誉教授・品川芳宣先生の講義を拝聴してきました。政権交代に伴って税制改正手続きが遅れているため,研修会テーマが『改正国税通則法における更正の請求・税務調査手続の実務上の問題点』と変更されるとの事前アナウンスがありましたが,税務調査手続きに関する国税通則法第74条の2から第74条の13については,平成25年1月1日から施行されたばかりということで,実にタイミングのいいテーマで,品川先生のお話を聞けると楽しみにしていたところです。
 品川先生は確か昨年3月で早稲田大学を退職されたと記憶しておりますが,相変わらずお元気そうで,時おり会場の笑いを誘いながら,講義を進められます。「国税通則法の改正に反対する論文を3本も書いた」先生ですが,「改正された以上,それを納税者の有利に使うのが税理士の仕事であり,法律を解説するのが私の仕事」ということで,改正法の問題点を次々にご指摘されます。

 中でも,筆者が最も気になったのは,国税通則法第74条の9「納税義務者に対する調査の事前通知」の規定に対する先生の解説でした。本改正により,税務調査が原則事前に通知をされることになったことは広く知られているところですが,この条文の骨格部分はこう規定されています。
 税務署長等は,当該職員に納税義務者に対し調査を行わせる場合には,納税義務者に対し,その旨及び一定の事項を通知するものとする そして,昨年9月に公開された事務運営指針では,「調査の対象となる納税義務者及び税務代理人の双方に対し,調査開始日前までに相当の時間的余裕をおいて,電話等により,……事前通知する。」とされており,この二つをつなげて素直に考えると,事前通知は,税務署長が,電話で,納税義務書と税理士に対して,行うことになります。これは,税務調査の終了の際の手続きについて規定した通則法74条の11第2項,第3項が「当該職員は,……説明するものとする。」「当該職員は,……勧奨することができる。」と規定していることの対比からみても,明らかではないかと思います。
 とすれば,通知が担当調査官からされた場合は,法律に違反しているということになります。
 さて,税務調査の連絡があったときに,この件を指摘して,署長から電話をいただかなければ,調査に応じる義務はないと言ったらどうなるか,大規模な税務署で,署長がいちいち納税者に電話して事前通知などできるはずがない――それが品川先生のご指摘でした。

 本改正にあたって,当初は,事前通知は書面で行うという方針が示されていたのですが,国税庁側の反対で,口頭・電話を基本とする方向で改正が決まったという裏話を聞いたことがありますが,書面交付にしていれば,まったくこうした問題点は生じなかった(税務署長名の書面を作成し,交付すればいい)わけで,今さらながら,書面交付しないことにこだわったことの弊害がこんなところに顕現されているというべきでしょうか。
 品川先生の解説を聞きながら,筆者は,税務署から「更正通知書」が届いた段階で,「事前通知が税務署長によって行われていない」ことを理由に,本件更正処分のもととなった税務調査は手続上の瑕疵(法律違反)があるので,更正処分は無効であるという訴えを提起したらどうなるのかと,つい,余計な空想をしたところです。

 本日創刊されたweb情報誌Profession Journalに連載が始まった近畿大学教授・八ツ尾順一先生の連載小説『法人課税三部門にて。』でも,改正国税通則法に基づく税務調査における事前通知の様子が描かれていますが,当然のように,調査官が直接電話で納税者に連絡する設定になっています。「新税務調査制度を予測する」という副題のつけられた小説が,どんなふうに展開されるのか,大いに楽しみです。
↓ Profession Journalの連載はこちらから。
https://profession-net.com/professionjournal/general-rule-article-5/

【税理士 米澤 勝】