[企業不正]IXI事件は終わっていない。

 当時東証2部に上場していた株式会社アイ・エックス・アイ(以下,IXI)が破綻し,大規模な家宅捜索の様子がニュースで報道されたのは2007(平成19)年1月のことでした。あれから4年以上が過ぎましたが,まだまだIXI事件の後始末は終わりません。

 昨日,破綻前のIXIの親会社株式会社インターネット総合研究所(以下,IRI)が,IXI株式の取得(公開買付)をめぐって,元親会社である株式会社シーエーシ−(以下,CAC)やその役員などを相手どって起こした損害賠償訴訟で。30億円の和解金を受領することで,和解が成立したことを発表しました。
http://www.iri.co.jp/jp/ir/pdf/20110620.pdf
 IRI社は,ある意味,IXI事件の最大の被害者かもしれません。有望な投資先としてTOBで株式を取得したところ,1年半も経たないうちに,大規模な架空循環取引が発覚してIXI社は破綻,140億円を超える損害を受けたうえ,IRI社自身も上場廃止に追い込まれたわけですから,本件訴訟の提起も当然のことだと思われます。
 リリースでは,「本和解によって,その(損害)一部を回復することができた」と結んでおりますが,他の訴訟の相手方である,新日本監査法人IXI社の元代表取締役との訴訟はまだ継続しているようです。

 一方,CAC社もリリースを出しており,「原告主張の損害賠償金の支払義務ないし売買代金の返還義務がないことを確信し,全面的に争って」きたところ,「錯誤無効が認められる可能性が高く見込まれる」という訴訟代理人の意見があり,そうすると,売買代金全額プラス遅延損害金の支払いが命じられるため,「本件訴訟の存在がリスク要因」であり,「訴訟の長期化による株主の皆様にとっての不透明要因の継続などを深く考慮」した結果,「和解勧告を受け入れるのが合理的と判断した」ということです。
http://www.cac.co.jp/news/news167.pdf

 通常,こうした和解内容については第三者に開示しないよう条件が付くケースが多いのですが,本件は,原告・被告ともにリリースを出しており,たいへん興味深い事件です。とくに,CAC社の和解勧告受け入れに至る意思決定プロセスの一端が垣間見えたような記述は,自身がIXI社の不正に関与していないことを強調しながら,それでも,和解を受け入れることが合理的である,という判断に至らざるを得ない状況がよくわかります。
 もっとも,このリリースを読んだIRI社の関係者は,CAC社がそこまで売買契約の錯誤無効という判断が出ることを恐れていたのであれば,もう少し賭け金(損害賠償額)をつり上げてもよかったと思ったかもしれません。もちろん,IRI社にも,IXI株式取得前のデューデリジェンスで,不正な売上計上を見抜けなかったという落ち度があるので,あまり賭け金を上げると,かえって,過失相殺を認定されて,賠償額が減額される可能性もあったわけです。

 なお,CAC社は,同時に業績予想の修正を発表するのですが,それを受けて,日本格付研究所(JCR)は,格付けはBBB+で据置き,見通しも安定的であると発表しました。
http://www.jcr.co.jp/top_cont/report_desc.php?no=11d0225
 CAC社のリリースでも,売上高や経常利益は期初予想通りと見込んでいるとのことで,「当社の自己資本の厚みを考慮すれば財務基盤に与える影響は限定的」で,「和解金の支払いも,当社の手許流動性と資金調達力を踏まえると,特段支障なく対応できる」という判断から,格付け変更する必要はないと結論づけています。

 架空循環取引という用語を,広く一般に知らしめることとなったIXI事件。その損失負担をめぐる訴訟はまだまだ終わっていないということで,巨額粉飾事件の影響の大きさをあらためて感じた次第です。

【税理士 米澤 勝】